研究室紹介

当研究室では,三大材料のなかのセラミック材料分野におけるバイオセラミックスの創製と評価を中心にものづくりを研究しています。

β型リン酸三カルシウムの多孔質体および緻密体の外観

バイオセラミックスの緻密焼結体に関する研究

骨などの生体硬組織の代替材料として注目されているハイドロキシアパタイト(HAp)およびβ型リン酸三カルシウム(β-TCP)の調製とキャラクタリゼーションを行っています。とくにβ-TCPセラミックスは生体親和性が高く,骨置換性および骨充填能を有するため生体材料として利用されています。β-TCPを生体材料としてもちいる場合,生体内での骨吸収速度が骨形成速度と適合し,また機械的強度が自家骨と同等であることが理想的であります。しかし,β-TCPは自家骨と比較すると溶解度が高く,機械的強度が低いことが問題点とされています。この問題点を改善するためにβ-TCPのCaイオン位置およびPイオン位置に各種金属イオンを固溶させることで,機械的強度の向上,熱安定性の改善および溶解性の制御を検討しています。

β型リン酸三カルシウムの結晶構造の詳細

β-TCPは菱面体晶系に属し,空間群と格子充填は,それぞれR3c(No.161)とZ=21(Ca3(PO4)2として計算)です。また,六方晶設定での格子定数はab=1.04352  nm,c =3.74029 nm,α=β=90o,γ=120o です。

上図にβ-TCP 結晶構造の模式図を示します。c 軸方向には結晶学的に独立したAおよびBカラムの二つのカラムが存在します。Aカラムは[-P(1)O4-Ca(4)O3-Ca(5)O6-]で構成された三回軸上に存在し,Bカラムは[-P(3)O4-Ca(1)O7-Ca(3)O8-Ca(2)O8-P(2)O4-]で構成されます。Ca(1)-Ca(3)は直線状には並ばずに折れ線状に配置します。β-TCPの結晶構造はAカラムを回転軸の中心とし,それを6個のBカラムがらせん回転をしながら配置する [001]方向に伸びるトンネル状構造になります。このようにβ-TCPには結晶学的な特異性をもつCa(4)(席占有率0.5)およびCa(5)がAカラムに存在し,これらが金属イオンの置換固溶に影響しています。

下図はβ-TCP を焼結する際に何も添加しないで無添加で1130℃焼結を行ったものと焼結する際にV2O5をP(1)サイトに対して0.5mol%加えたものです。明らかに気孔率は減少して緻密に焼結していることがわかります。

さらに骨組織再生の促進を目指し,骨芽様細胞および破骨細胞前駆体をもちいて細胞レベルでの生物学的な材料評価を行っています。組織形態の形成には細胞が接着する足場が必要で,セラミックス表面上で細胞が積極的に接着,増殖,分化する材料創製も研究しています。

バイオセラミックスの多孔質焼結体に関する研究

骨欠損部の充填剤としてβ-TCPなどのリン酸カルシウム材料が臨床使用されています。そのうち,多孔体は気孔性状が細胞伸展するためのよい足場材料となることで知られているため,当研究室では,多孔体の調製方法に着目して研究しています。具体的には,界面活性剤を用いた発泡法を用いて各種起泡剤がえられた多孔体の気孔に及ぼす影響を検討しています。

一方,この材料を生体内に埋入し治療に使用する際に,緻密な焼結体の形状では骨細胞が侵入できないために,新生骨の生成が遅く,治療に長期な期間を要します。そこで外部と連通した,ある程度の大きさの孔径をもつ多孔体の調製が求められています。当研究室では,この多孔体の調製において,連通孔と規則的空間構造もつ3Dプリントしたプラスチック製鋳型に用い,焼成時には鋳型が焼失するとともに,その鋳型形態を継承した多孔形状を有するβ-TCP多孔体の調製を目指しています。

骨接着材料に関する有機/無機複合材料に関する研究

現在,PMMA骨セメントが人工関節の固定で広く使われています。骨セメントに優れた接着性をもたせるためにシアノアクリレート接着剤に着目しました。シアノアクリレート接着剤は,医療用接着剤として用いられ,とくに瞬間接着剤としても使われており,優れた接着性を示しています。 当研究室では、生体親和性が高く、生体内で自家骨に置換するさまざまな組成をもったβ-TCPにシアノアクリレート接着剤を混合させて新たな硬組織用骨接着剤を開発することを目的としています。そこでβ-TCP顆粒体とシアノアクリレート接着剤とをさまざまな比率で混合し,可使時間を想定した硬化時間測定とその物性評価を行っています。

開発中のインジェクタブル ボーン ボンド

最後に

今回、このような形で当研究室をご紹介しました。読んでみて興味を持たれたのであれば幸いです。

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メールアドレス:kazuaki.hashimoto@p.chibakoudai.jp